おだやか読書日記

ミステリとかファンタジーとか

泡坂妻夫『11枚のとらんぷ』(創元推理文庫)

あらすじ

 アマチュア奇術クラブがショーのラストに披露した〈人形の家〉。その仕掛けから飛び出すはずの女性が姿を消し、その後マンションの自室で撲殺死体となって発見された。その死体の周りには、同じクラブ員の鹿川が著した奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使用されている小道具が毀された状態で散乱していた。

 奇術師としても活躍していた作者だからこそ書くことのできた奇術×ミステリの傑作でした。

 本書は三部構成になっていて、第Ⅰ部ではマジキクラブによるショーから死体発見まで、第Ⅱ部は作中作の『11枚のとらんぷ』、第Ⅲ部では世界国際奇術家会議へと舞台を移し解決編となります。

 第Ⅰ部では奇術クラブの特徴的なメンバーによる奇術ショーがコミカルに描かれ、ドタバタコメディの味わいが楽しめました。この部分を読む限り軽い読み味のミステリなのかなと思いきや、第Ⅱ部が凄かった。これだけでも奇術をテーマにした日常の謎の短編集として楽しめるうえ、第Ⅲ部の解決編を読むと、第Ⅱ部のいたるところに殺人事件の真相を導き出す伏線が存在していたことに気づかされます。

 キャラクター、構成、トリック、伏線回収、そしてどんでん返し。ミステリとしての魅力がこれでもかと詰め込まれた傑作なのでこれはめちゃくちゃおススメ。

 

 そういえば、亜愛一郎シリーズや『煙の殺意』などの短編集は読んだことがあるけど、長編は初めて読んだかも。まだ多くは読んでいないけど、今のところ泡坂作品に外れは一つもありません。そうそう、本書には亜愛一郎シリーズでおなじみのあの老婦人が登場していて、思わずニヤリとしました。