おだやか読書日記

ミステリとかファンタジーとか

出久根達郎『出久根達郎の古本屋小説集』(ちくま文庫)

収録作品

古本屋のにおい

「猫じゃ猫じゃ」

「カーテンのにおい」

「書棚の隅っこ」

古本をあきなう

「おやじの値段」

「腹中石」

紙魚たりし」

「背広」

「セドリ」

「えっぽどのこと」

思い出のページ

「本の家」

「焼き芋のぬくもり」

「金次郎の愛読書」

「江戸っ子」

「住吉さま」

「親父たち」

本の劇場

「そつじながら」

「赤い鳩」

「饅頭そうだ」

送り火ちらほら」

最後の本

「シオリ」

「雪」

「東京駅の蟻」

「無明の蝶」

 古本屋小説というのが面白そうで手に取った一冊です。恥かしながら作者の名前は初めて知りました。なんと直木賞まで受賞されている方だとは。さらに、元々古書店主ということで古書店の用語や日常、古本の蘊蓄なども満載でした。

 そして内容ですがとっても面白かったです。古書店や古本がテーマのものばかりなのに、エッセイのような私小説風の作品、ちょっと不思議な話や怖い話、思わず笑ってしまう話、ミステリっぽい話など、バラエティ豊かな傑作集となっていました。

 好みを挙げればキリがありませんが、「そつじながら」「赤い鳩」はミステリの要素を含んだ作品で、とりわけ楽しめました。特に前者は往復書簡で構成された作品で、上質な犯罪小説です。

 『貧乏の研究』という十年以上売れない古本が主人公の「書棚の隅っこ」、小噺のような「おやじの値段」は古本をテーマにほっこりして笑えるお話でこちらも面白かったです。

 

 書店で何気なく手に取った本がこんなにも面白かったのは久しぶりかもしれません。普段本の購入はネットを利用するのですが、実際に書店に赴きこういう出会いがあると嬉しくなりますね。