おだやか読書日記

ミステリとかファンタジーとか

一穂ミチ『スモールワールズ』(講談社文庫)

収録作品

ネオンテトラ

「魔王の帰還

「ピクニック」

「花うた」

「愛を適量」

式日

「スモールスパークス(あとがきにかえて)」

 ネットの紹介で気になっていた一冊。普段あまり読まないタイプの作家さんなので自分に合うか少々不安だったのですが、買ってよかった!読んでよかった!いやぁ、とても面白かったです。個人的ベストは「魔王の帰還」。次いで「花うた」、「愛を適量」。「ピクニック」も捨てがたい。

 「魔王の帰還」は身長190センチ近い体格の良さと岡山弁が強烈なインパクトを放つ姉・真央が、秘密を抱え出戻ってきたところから始まるお話で、高校生の弟の視点から語られます。姉のキャラクターが大好きで、弟の心の声による突っ込みにも思わず笑い、明るく爽やかな青春小説としても最高でした。

 「花うた」は書簡体形式の短編で、唯一の肉親であった兄を失った深雪と、深雪の兄の命を奪った過失致死傷で服役している秋生による手紙のやり取りで物語が進みます。深雪にとって憎しみの対象でしかない秋生とのやり取りが、長い時をを経てまさかこんな展開をみせるとは。

 「愛を適量」では、中年教師の代わり映えしない生活が、長年会っていなかった子供との再会によって、少しづつ変化してゆきます。愛には適量がある。しかし、適量じゃなくてもいい時もある。そんなラストにジーンとしました。

 「ピクニック」は母、娘、その夫、夫の両親、生まれて半年の娘と夫の子供がピクニックをしている、いかにも幸せそうな場面から始まります。しかしここに至るまでこの家族は想像を超える苦難を乗り越えてきました。その苦難とは。という物語で、ミステリが好きな読者にも刺さる一編だと思いました。ラストは感動的でもありますが、語り手の切望はある意味ゾッとさせますね。

 

 いずれの物語も、登場人物たちの葛藤や悩み、共感できる思いの描き方が非常に巧みで、うまく言葉にできない様々な思いを代弁してくれているような感情表現が素晴らしかったです。