ミステリやSF、ホラー、文芸作品にいたるまで、北村薫と宮部みゆきの目利きが選び抜いた優れたアンソロジーでした。
収録作品
半村良「となりの宇宙人」
黒井千次「冷たい仕事」
小松左京「むかしばなし」
城山三郎「隠し芸の男」
吉村昭「少女架刑」
吉行淳之介「あしたの夕刊」
山口瞳「穴 考える人たち」
多岐川恭「網」
戸板康二「少年探偵」
松本清張「誤訳」
井上靖「考える人」
円地文子「鬼」
ユーモラスで思わず笑ってしまうお話があるかと思えば、恐ろしくてゾクッとする恐怖譚もあり、その中でも以下の作品は特に好みの作品だった。
先頭の「となりの宇宙人」は、ある日不時着した宇宙人をアパートの住人達が世話をするユーモアSFといった読み味の作品。急に現われた宇宙人という状況をすんなり受け入れて、普通に生活している住人たちが可笑しくて楽しい短編。
「冷たい仕事」は個人的に本書の中でベストにしたい作品。内容としては二人のサラリーマンが出張先の旅館の冷蔵庫の霜を一晩中取るというだけで、特にオチなどもないお話だけど、何故だか面白い。まじめな文体で、やっていることはとってもヘンテコ。恥かしながらこの作品を読むまで作者の名前を知らなかったので、他の作品も気になってきた。
「むかしばなし」も大好きな内容だった。取材のためにやってきた大学生や教授に、自身の過去を語る老婆。その内容が次第に雲行きの怪しいものになってゆくが…。からのあのオチ、最高でした。
「隠し芸の男」は、傍から見ると滑稽な男を描いた作品なんだけど、当人からしてみれば、あの状況で、上司からあの一言を言われたら絶望だよなぁ。辛酸を舐めながら今までやってきたことは何だったんだという想いでヤケクソになった結果、あのオチになったのかな。
「少女架刑」は前の四編とはガラッと変わって、悲哀に満ちた苦しい物語だった。死んだ少女の視点から、少女自身の体が解剖され家に戻されるまでの過程が語られてゆく、官能的な味わいもあるしっとりとした一編。
「網」は、かつて恋人だった女性の父親を殺そうとする話。計画とか行動がなかなか杜撰で、想像すると笑えてしまう。これは『的の男』の第一章だそうで、次はまとめて読んでみたい。
「少年探偵」は古き良きジュヴナイルミステリといった趣で、ネタは単純だけど、読んでいてほっこりするミステリ。作中で言及されていた、「子供の科学」に載っている小酒井不木の短編というのは塚原俊夫シリーズのことだろうか。以前論創ミステリ叢書の『小酒井不木探偵小説選』でそのシリーズを読んだことがあって、このように知っているネタが出てくるとちょっぴり嬉しい。
ここに挙げなかった作品も十分面白かった。このアンソロジーシリーズは追いかけようと思う。