おだやか読書日記

ミステリとかファンタジーとか

ファビアン・ニシーザ『郊外の探偵たち』(ハヤカワ・ミステリ)

あらすじ

 30年以上殺人事件とは縁遠い平和なニュージャージー州郊外のガソリンスタンドで店員が殺害された。保存中の現場に偶然出くわし子どもがお漏らしをしてしまったことがきっかけで、元FBIのプロファイラーで現在第5子を妊娠中のアンドレアは、今は落ち目の新聞記者ケニーとともに事件の調査を始める。すると、50年前に発掘された骨と今回の事件が関連していることがわかってきて……。

 タイトルからもわかる通りニュージャージー州の郊外を舞台に、2人の探偵役が活躍するミステリです。色々なテーマが盛り込まれていてとても面白かったです。

 まず、舞台がアメリカの郊外ということ。そこは中国系やインド系の人々が多く暮らしている町で、役所や警察などから人種差別を受けている問題が取り上げられ、もちろん今回の事件と大きく関わっています。

 もう一つが主人公のアンドレアが妊娠中で4児の母親であるということ。アンドレアは今自分が置かれた状況に不満を持っています。夫は非協力的で日中の4人の子どもを一人で世話しなければならず自由は全くない。やりがいのあったプロファイルの仕事も子どもができたことで辞めざるを得ず、鬱屈した日々を過ごしていました。そんな時に出くわした今回の事件は自分を取り戻すチャンスであると意気込みます。

 しかしながら説教臭さとは無縁で最後まで楽しく読めました。上記の生きづらさを抱える問題も、登場人物たちのユーモアを混ぜた軽妙なセリフで心地よさが感じられます。特に好きなのはアンドレアのママ友たち。毎日の退屈な生活で暇を持て余した彼女たちは喜んでアンドレアに協力し、張り込みをはじめ様々な場面で活躍し、コージーミステリ的な味わいが最高です。アンドレアの子どもたちのやんちゃさにも思わず笑わせられました。しかも子どもの何気ない質問がきっかけで突破口が開けた場面もなかなか良かったです。

 

 訳者あとがきによるとシリーズ第2弾が刊行されているとのこと。こちらも面白そうなので翻訳されることを期待しています。