おだやか読書日記

ミステリとかファンタジーとか

ヴィヴィアン・コンロイ『プロヴァンス邸の殺人』(ハーパーBOOKS)

あらすじ

 1930年、スイスで寄宿学校の音楽教師をしているアタランテは、疎遠だったパリ在住の祖父が亡くなったことで莫大な遺産と館を受け継ぐことになった。しかし相続にあたり、祖父が秘密裏に続けていた探偵業を引き継ぐという条件が付されていた。

 引っ越しを済ませたアタランテの許に早速ひとりの依頼人が現れる。伯爵との結婚を控えた依頼人は、伯爵の前妻の死は事故死ではないという警告の手紙を受け、真実を調べてほしいという。アタランテは身分を隠し、依頼人とともに披露宴が行われる南フランスの伯爵邸へ向かうが、そこには一癖も二癖もある招待客や親族ばかり。さらに地所内で密猟者の刺殺体が発見されてしまう。

 あらすじからも想像できるかと思いますが、コージー色のあるミステリ作品です。主人公であるアタランテが祖父の遺した言葉を胸に初めての探偵業に挑むわけですが、コージーミステリに有りがちな素人探偵によるヘマがあまり見られず、信用できそうな人、魅力的な人に対しても一線を引いて身分を明かさず情報を引き出したり、元々難しい年ごろの令嬢たちと接してきた音楽教師の経験から、相手の心情を慮りつつ仕事を進めるので、自らがトラブルメーカーにならないというところが好印象でした。一方で、依頼人を含めた屋敷の登場人物たちはかなり癖のある人物ばかりで、人間関係のドロドロとした部分などが緻密に描かれています。

 ミステリとしては序盤に男の刺殺体が発見されるものの、その後の展開は人間関係や心理についてじっくりと描かれてゆくので人によってはじれったさを感じてしまうかもしれませんが、個人的には読みごたえのある作品でした。いわゆる動機の謎を占める部分が大きいホワイダニットとして楽しめます。

 このシリーズは現在二巻まで刊行されているようで、続編も楽しみにしたいと思います。