おだやか読書日記

ミステリとかファンタジーとか

紫金陳『検察官の遺言』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

あらすじ

 地下鉄で騒ぎを起こした男が持つスーツケースの中に入っていたのは元検察官・江陽の遺体だった。男は著名な弁護士・張超で、元教え子である江陽の殺害を自供し、警察の捜査によってその証拠も見つかったことで事件は解決したかに思われた。しかし初公判で張超は突如犯行を否定し、捜査は振り出しに。なぜ張は自供を覆したのか、もし彼の主張が事実ならば真犯人は誰なのか、張の目的は何なのか。江陽殺害事件を調べるうちに、12年前の事件に繋がりがあることが判明し、その事件の裏に巨大な悪の存在が浮かび上がる。

 素晴らしかったです!以前この作者の『悪童たち』を読んだときにも感じましたが、現代中国の社会の奥に潜む闇を暴くミステリとして傑作でした。『悪童たち』では幼い子供たちの視点から描かれる犯罪小説としての味がありましたが、今作では社会的に大きな影響を及ぼす巨大な存在の悪に立ち向かう人々の存在を描いた社会派ミステリ、警察捜査小説の魅力がたっぷり詰まった作品として楽しめました。

 江陽殺害事件の真相を捜査する厳良と趙鉄民のパートと、過去の事件を追う江陽のパートで構成されており、江陽の物語が次第に現在へと下ってゆき、江陽殺害事件へ繋がったとき、明かされる正義を貫く人物の決死の計画にしばし呆然としてしまいました。

 物語が幕を閉じる最後の一文の意味が分からなかったのですが、解説を読んでその意味が理解できました。